八ヶ岳・稲子岳南壁左カンテルート ~行列のできる五つ星ルート~

2021年9月20日(祝)

メンバー 鶴見、新井、渡邉(潤)
天気 快晴、一時曇り


『ほんとうはね、剣岳の源治郎尾根に登るはずだったんですよ。春先から計画を立てていたんですけどね。ほら、うちの会社、給料も少ないけど、休みもうんと少ないでしょう。山仲間たちの半分以下ですよ。「土曜日は仕事だから…」なんていうと、「えー、昭和かよっ。カワイソー…」って言われちゃうんですよ…。それでね、少ない休みを有効に使うために春先に一年計画を立てておいたんです。9月の連休は有給を1日足して2泊3日で剣岳の源治郎尾根に登るってね。でもね、今回もまた台風に邪魔されまして。悪天が予想されたんで、計画は中止になったんです。そこで、代わりにどこかに登ろうということになって、イナゴダケに行ってきたんです。えっ、「最近、イナゴライダー(175R)がミュージックステーションに出てこないねぇ?」って…。イナゴはもうどうでもいいデス。だから専務、給料あげるか、休み増やすか、本気で考えてくださいよー』

 山に興味のない人たちに休日をいかに楽しく過ごしたかを一生懸命説明しても、結局は、最終的には、なんか自分が嫌な気持ちになり、ブルーになり、おセンチになり、結局というか最終的というか、まあ必然というか当然というか、気分を立て直そうとして次の休みも山に登ろうと計画を立て、また雨や台風に邪魔をされ、ますますストレスが貯まるのです。


 カーオーディオで175R(イナゴライダー)ではなく、あいみょんを聴きながら碓氷峠のトンネルを抜け、信濃の国に馳せ参じた我々3人は“源治郎さんのことなんか、もうとっくに忘れましたよっ”というふりをして、涼しい顔で中山峠へと向かう登山道を歩き始めました。

 登山道といっても、戦車だかブルドーザーだかのキャタピラの跡のついた林道のようなところを歩いて行きます。八ヶ岳の森は早くも秋の気配を感じさせ、道端には大小色々なキノコが見つかりました。道は次第に針葉樹林の中に潜り、時々森林鉄道跡の古い線路を跨ぐようになります。歩き出して1時間もすると下山する人たちとすれ違うようになり、まもなくして池のほとりのしらびそ小屋に到着しました。みどりが池の水面には稲子岳の岩壁と青空が美しく映り込み、傷心気味のクライマーを元気づけてくれました。

 小屋から稲子岳南壁の入り口(?)までは、中山峠へと続く登山道を歩きます。途中の「登山道と沢が最も接近した辺り」から登山道を離れ、ピンクのリボンを目印に森の中を歩いて行きます。踏み跡は不鮮明でリボンだけが頼りです。最初のうちは傾斜が緩く比較的歩きやすいのですが、次第に岩の露出が目立つ急な斜面に変わります。岩壁は樹々の間から見えてはいますが、どこがお目当てのルートなのかは全くわかりません。いつものことながら、取り付きを見つけるのは大変です。今回は先行パーティーの声に導かれ、なんとか辿り着くことができましたが…。

 左カンテルートは近年人気のルートのようです。トポやルートの詳細は「日本登山体系8 八ヶ岳・奥秩父・中央アルプス」に掲載されていますので、ご参照ください。ただし、左カンテルートに関してはルートが少し変わっているようです。

 

緊急事態宣言下でも渋滞するほどの人気ルート!

 無事に辿り着いた取り付き点には我々の前に2組4人がおり、さらに後から1組2人がやってきました。案の定、ロープを結んでから登り始めるまでに、相当待たされました。こういう渋滞している時にパーティーの実力というのが露呈してしまいます。我々は後続パーティーにどう見られていたのか気になるところです。

 2組目のセカンドが登っていってから十分な間隔を空けて、登はん開始となりました。かれこれ1時間は取り付き点にいたことになります。我々は3人パーティー、ロープ2本の態勢なので、リードは終始替えることなく鶴見会長にお任せしました。

 1ピッチ目。傾斜のゆるい凹角風情のややワイドなクラック主体の約30m。クラックと言ってもジャミングとかするまでもなく、身も心も軽やかに通過。最後の一手は灌木の幹をつかみました。終了点はリングボルト数個とハンガーボルト1個。

 2ピッチ目。浮石が目立つ、傾斜の緩い凹角を約30m。すでに十分な高度感があります。とにかく落石に気を遣いながら登りました。終了点は少し離れて2箇所あり、やはりリングボルトとハンガーボルトの組み合わせ。2箇所ともしっかりしています。

 3ピッチ目は約40m。このルートの核心部となるチムニー登りで、トポにはⅢ+の表記があります。と言っても、ずっとチムニーを登るわけではなく、途中から隣の凹角へ移り、さらに最後は少しだけフェースを攀じって終了点へと達します。終了点はリングボルトとハンガーボルト。

 4ピッチ目。傾斜が緩く階段状なのでコンテで通過するパーティーが多いようですが、我々は初めてのルートなので慎重に登りました。次のピッチをどう登るかで終了点が変わります。
 5ピッチ目。ピナクル状の岩塊を直上するルートとその左奥の幅の広い凹角を登るルートがありますが、我々は後者を選択。約20mも登ると薄茶色の土に覆われた平らな場所にたどり着きます。なんとなく尻切れトンボ的なゴールです。あとで調べてみたら、凹角の左上の岩塊のてっぺんにハンガーボルトの終了点があったみたいですね。

 下りは稲子岳から中山峠方面へとつづく踏み跡を辿りました。30分も歩くと稲子湯と中山峠を結ぶ登山道へ出て、難なくしらび小屋へと戻ることができました。振り返れば、稲子岳は真っ白な雲に呑まれかけて、うっすらと見えるだけ。小屋前のベンチで少し休んだのち、黙々と来た道を降りました。


 稲子岳南壁左カンテルートは、日帰りで楽しめる貴重なバリエーションルート。やはり、ゲレンデのマルチピッチとは違う、充実感がありますね。ぜひ皆さんも登ってみてください!

【コースタイム】
栃木市/4:00 出発 → 北関東自動車道・上信越自動車道経由
 → みどりが池入り口駐車場/6:45 → しらびそ小屋/8:00 → 稲子岳南壁左カンテルート取り付き/9:00 → 登はん開始/10:15 → 登はん終了/12:30 → 下山開始/13:00 → しらびそ小屋/14:00 → みどりが池入り口駐車場/15:00 → 北関東自動車道・上信越自動車道経由 → 栃木市/19:10


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photo01:しらびそ小屋までの登り
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photo02:登山道から離れて、リボンを頼りに南壁を目指す
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photo03:中央カンテルート 1ピッチ目
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photo04:3ピッチ目のⅢ+のチムニー(右)と凹角(中央)
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photo05:3ピッチ目終了点からチムニーと凹角を見下ろす
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photo06:4ピッチ目の中盤
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photo07:4ピッチ目の最後は7mほどのトラバース
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photo07:5ピッチ目の幅の広い凹角。これが最終ピッチとなった